難聴には伝音難聴と感音難聴、そしてその2つが合わさった混合性難聴があります。補聴器は、そんな難聴に対して聞こえを補ってくれるアイテムです。似たようなアイテムにメガネがありますが、似ている部分と似ていない部分とがあります。
メガネの働きに例えることができる補聴器というのは、ユーザーが伝音難聴の場合です。しかし、高齢者の難聴は感音難聴が一般的なので、メガネの働きに例えることはできません。
補聴器を使用する人のほとんどは感音難聴です。ですが、メガネの働きに似ているのは伝音難聴に対しての補聴器ということになります。詳しく解説していきます。
目とメガネ
まず、目とメガネの関係を考えてみましょう。視力が悪い状態というのは、網膜に光の焦点が結ばれていない状態です。網膜は光を電気信号に変えて脳に送る器官なので、焦点がズレているとぼやけて見えてしまうのです。メガネは、そのズレを修正するアイテムとなります。
耳と補聴器
一方の耳と補聴器の関係はというと、伝音難聴と感音難聴そして混合性難聴の3種類に分けられます。
この伝音難聴と感音難聴が混在していることが誤解を招く原因となっています。
伝音難聴
伝音難聴とは、外耳から中耳にかけて問題がある難聴のことで治療で改善されることも多い難聴で、中耳炎や耳垢栓塞(耳あかのつまり)などがあります。
この伝音難聴の場合に限っては、目とメガネの関係になぞらえて補聴器を説明することができます。なぜなら、難聴の原因となっているのが電気信号に変換する有毛細胞にないからです。電気信号に変換する前の段階に問題があり、単に音が聞こえにくくなっているのが、伝音難聴となります。
ですから、伝音難聴に対しての補聴器は、基本的に音を大きくすれば聞き取りは改善されます。そこが、メガネをかけることで見えるようになるのと似ているというわけです。
感音難聴
そして感音難聴は、内耳以降に問題がある難聴で、加齢性難聴や突発性難聴などがあります。感音難聴のほとんどが、有毛細胞のダメージによるもので、治療法はありません。有毛細胞とは、音を分析し電気信号に変えて脳に送る器官で、その他にも音量に合わせて感度を変えてくれる働きもしています。
有毛細胞は、担当する周波数帯が配置場所で決まっているため、ダメージがどこにあるかで、聞こえにくい周波数帯が決まります。また、ダメージの程度によって感度の良し悪しが決まります。
ですから、単純に音を大きくすれば聴力の問題が解決するわけではなく、周波数ごとの調整を行う必要が出てくるのです。そして、有毛細胞のダメージの程度によっては補聴器による聞き取りの改善には差が出てくるのです。
外耳 | 中耳 | 内耳 | 内耳 | 脳 | |
---|---|---|---|---|---|
器官 | 外耳道 鼓膜 | 耳小骨 | 蝸牛 前庭階 鼓室階 外リンパ液 | 蝸牛 蝸牛管(中央階) らせん器(コルチ器) 内リンパ液 外有毛細胞 内有毛細胞 | 聴神経 |
音の伝わり方 | 空気振動 | 固体振動 | 液体振動 | 電気信号 | 音として認知 |
分類 | 伝音系 | 伝音系 | 感音系 | 感音系 |
老眼と加齢性難聴
老眼が調節力の低下に伴って焦点距離が合わなくなるのに対して、加齢性難聴(老人性難聴)は、加齢による有毛細胞の損傷によって引き起こされます。
一般的に高齢になってから補聴器が必要になった場合、ほとんどが感音難聴です。つまり、目でいうところの網膜に問題がある状態となります。
メガネは焦点のズレを修正して正常な網膜に焦点を結ぶものであって、網膜に問題がある場合(たとえば加齢黄斑変性など)にはメガネを着用しても明瞭な視界は確保できないのです。
感音難聴の症状
主に有毛細胞の損傷によって聞き取りが悪くなります。言葉の理解力が悪化し、聞き間違いが多くなります。また、補充現象(リクルートメント現象)と言って、大きな音に対して内有毛細胞の興奮を抑えることが出来ず音の大きさが良くわからなくなることがあります。実際には少ししか音量は大きくなっていないのに感覚的にはすごく大きくなったと感じる現象です。その他には、耳鳴りを併発しているケースも多いです。
聴覚のリハビリテーション
少しずつ低下していく感音難聴は、自覚しにくいものです。長い時間をかけて低下しているので、本人にとっては現状の聞こえ方が通常運転となっています。そこに補聴器でいきなり多くの音情報を与えると、今まで聞こえていなかった音がたくさん入ってくるためうるさく感じ、とても疲れてしまいます。
補聴器を初めて装用する場合は、音に慣れる準備期間が必要になります。幸い、メガネと違い補聴器は調整データを変更できるので、状態に合わせて少しずつ聞こえを改善することが可能です。少しずつ音の情報を増やしていくことで聴覚の働きも良くなり、言葉の聞き分けも良くなっていきます。
この一連の流れを「聴覚のリハビリテーション」と言い、はじめて補聴器を装用するときはこの過程が必要になってきます。
この部分を取ってもメガネとは違うことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
補聴器のいろいろな機能
感音難聴に対して補聴器は、周波数ごとに音を増幅している以外にも、ノンリニア増幅や衝撃音抑制機能などさまざまな機能が働き、聞こえの改善をサポートしてくれています。
補聴器メーカーが研究開発に力を入れているのは感音難聴向けと言っても良いかもしれません。それだけ伝音難聴と比べると感音難聴の聞こえをサポートするのは複雑で難しいとも言えるのです。
まとめ
少し難しくややこしい話ですが、お分かりいただけましたでしょうか。
補聴器をメガネに例えることは全部が間違っているわけではありません。伝音難聴と目の屈折異常は、神経系に情報が届く過程に問題があるので例えることは可能です。
しかし、ごく一般的な難聴である加齢性難聴は、問題が神経系にある感音難聴のため、補聴器をメガネに例えて説明することはできないのです。
補聴器がフルデジタルとなったことで、有毛細胞の働きを模倣できるようになりました。これにより補聴器は、単に音を大きくするためのアイテムではなくなり、より聞こえの改善が見込めるようになったのです。