はじめての補聴器、調整に時間がかかる理由とうまくいかない理由

補聴器の文字
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はじめに

 はじめての補聴器は、自分の聴力レベルに合わせるまで時間がかかります。個人差はありますが、2か月~6か月ほどと考えておくと良いでしょう。

ただし、時間をかければ合う(慣れる)というものではありません。

 

聴力レベルに合った目標利得に調整するためには、大きく2つの要素があります。

 

ひとつは、周波数ごとの過不足ない調整であり、もうひとつは音量に対する聴覚の慣れです。

 

利得調整

 補聴器は音を増幅して聞きやすくするわけですが、周波数全体を一律に増幅するわけではなく、ユーザーの聴力に合わせて周波数ごとに増幅度合いを変え、適切な聞こえを目指します。

補聴器の調整とは主に「周波数ごとの増幅度合いの調整」を意味します。増幅度合いの調整は「利得調整」と呼ばれており、ユーザーの聴力に対して目標とする増幅度合いのことを「目標利得」(ターゲットゲイン)と呼びます。

 

 この目標利得に対して過不足なく調整が出来ていると、補聴器の聞こえ方はとても満足度が高いものとなります。逆に周波数によって利得の過不足があると、聞こえ満足度は低くなります。

 

聴覚の慣れ

 はじめて補聴器を装用すると、今まで聞こえていなかった音が聞こえてくるので、意識がそれらの音に向きがちになります。いわば新しい音が増えている状態なので、あまり多くの音情報がありすぎるとうるさく感じ疲れてしまいます。

 

 そのため、はじめての場合は、弱めの音からスタートし音量に慣れてきたら段階的に目標利得に近づけていきます。そうすることでユーザーは負担なく聞こえ満足度が高い補聴器を手に入れることが出来ます。

 

初期設定の誤差

 ここで問題となるのは、はじめから調整誤差があり、弱めの音でスタートした場合です。

 

初期設定の誤差が生じる理由は、適切なデータを入力せずに目標利得を算出しているためです。

 

 この誤差がある状態だと、仮に過不足があったとしても全体的に弱い設定なので、ユーザーはもちろん、技能者も適切な利得調整、良いバランスになっているのかが極めて評価しにくくなります。

 

 本来であれば、音に慣れてきたタイミングで利得を全体的に上げれば済むはずですが、過不足があることで、そのまま上げると聞こえ過ぎている部分と聞こえが不足している部分が出てきてしまい、バランスの悪い、聞こえ方が悪い調整状態となってしまいます。

実耳測定なしの調整のイメージ①

実耳測定なしの調整のイメージ②

目標利得に近づけるための効果測定

 その悪い調整状態を改善するために技能者は、補聴効果測定(装用閾値測定、語音明瞭度測定など)を行って、補聴器を調整していくこととなります。この調整は何度も行う必要があり、時間がかかります。

実耳測定なしの調整のイメージ③

 

正確な初期設定のための必要データ

 そもそも初期設定時点で過不足なく誤差がないように設定できれば、弱めからスタートし慣れてきたらシンプルに利得を全体的に上げていけば良いわけですが、それを難しくしているのが裸耳利得データの代替となります。

 

過不足の無い、誤差の無い正確な利得設定を行うためには必要なデータがいくつかあります。

 

ユーザー固有のデータ

  • 気導聴力と骨導聴力のデータ
  • 裸耳利得データ

装用条件のデータ

  • 耳栓の種類、またはシェルのベント情報

 

 上記のデータのうち、裸耳利得データは「実耳測定/REM」による測定を行う必要があります。そのため実耳測定器がない場合、平均データを代替データとして目標利得を算出します。

 

平均の裸耳利得データを基準とした補聴器設定は必ず誤差が生じます。

 

弱めの音量設定のうちは良いですが、音に慣れてきて目標利得に近づける段階になったとき、誤差があるままだといつまでたっても満足度が低い補聴器になってしまいます。

そのため、誤差を修正するために何度も繰り返し効果測定を行う必要が出てくるというわけです。

 

目標利得に近づいたタイミングで何度も利得調整を繰り返すか、初期設定の段階で合わせておくかで、補聴器調整におけるユーザーの負担はかなり差が出てきます。

実耳測定での初期設定

実耳測定で初期設定を行うと、正確な目標利得を算出できるため誤差は極めて少なく済み、弱めで設定した後の調整がとても楽になります。

実耳測定による調整のイメージ①

実耳測定による調整のイメージ②

実耳測定による調整のイメージ③

 

実耳測定について詳しくはコチラ

 

実耳測定のメリット

 補聴器の効果測定において、実耳測定はユーザーが応答する必要がないため、客観的な評価を得ることが出来ます。一方で実耳測定を行わない場合は、ユーザーが応答する必要があり、一定程度の主観的な評価が入り込むため何度か測定をして平均をとる必要が出てきます。

 

実耳測定であれば、補聴器の音に慣れる時間は必要ですが、繰り返しの調整を行う必要がないため、結果的に短い期間で補聴器を合わせることが出来ます。

 

まとめ

 はじめての補聴器に時間がかかるのは、聴覚の慣れが必要なことと、実耳測定を行わないで初期設定をしていることが原因です。

実耳測定による初期設定を行えば、基本的には聴覚の慣れの時間だけで済みます。現在、実耳測定器を導入している店舗は限られており、全国でその割合は1割以下と言われています。

 

聞こえ満足度が高い補聴器を手に入れるなら、実耳測定を導入している専門店をおすすめします。

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